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一瞬、触れただけですぐに離れた柔らかな感触。

フラウは己が錯覚を起こしたのだと思った。

けれど、頬を熟れた林檎のように染め脱兎のごとく逃げ去ろうとするテイトの姿が双眸に映り、咄嗟に小さな手を掴む。



「―――テ、イト?」

「な、何だよっ!」



呼び止めた青年の声と、呼び止められた少年の声が互いに上擦っている。



「お前・・・今、何した?」

「・・・ ・・・っ」



掴んだ手から伝わる、熱い体温。
俯いていた顔を上げた少年の表情はやはり熱が篭っているのか、赤い。

テイトは精悍な顔つきの青年を射ると、先ほどの振舞いの説明を口にした。



「し、したくなったからしただけだ!わ、悪いか!?」



唇を尖らし拗ねる少年の態度。
青年は頭の回転を働かせ思考を巡らすが、上手く答えに辿り着かない。



「・・・おい、クソガ―――キっ!?」



精強な帝国軍人にも負けぬフラウの平素ならば、絶対に無い隙。
けれど、愛しい少年の予測不可能な行動に反応が遅れた。

襟元を掴まれ、無理やり前屈みにさせられた其の瞬間。



再び、唇に柔らかな感触が触れた。

眼前にテイトの閉じた瞼と長い睫毛が見える。



「〜〜っ、おやすみっ!」

「・・・ ・・・ ・・・ ・・・」



面食らうことしか出来ない呆けたフラウを残し、テイトは艶やかな亜麻色の髪を揺らしながら早足で立ち去った。

厄介にも、初めての少年からの接吻の余韻だけを残して。



独りになったフラウの端整な顔は赤く染まり、鼓動が忙しなく打ちつける。
逞しい体躯を屈み込むと、頭を掻きながら一人ぼやいた。



「・・・ ・・・反則、だろ」















2009/5/3