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「テイト、気分はどうだ?」

水のたっぷり入ったコップを持って来くるハクレンを見て、テイトはベットの上で身体を起こす。

「大分落ち着いたよ。…ごめんな、ハクレン…俺のせいで大事な勉強時間を……」

「気にするな。風邪を引いたお前を、一人にする訳にはいかないからな…。」


ハクレンはしょんぼりと俯いてしまったテイトに苦笑しながらコップを渡す。

テイトはコップを受けとり、一気に水を飲み干すとハクレンに差し出す。

「すまないが…これから用事があってな……暫く席を外すが、大人しく寝ていろよ。」

「分かった。大人しく寝てるから、心配いらないよ。」


ハクレンはテイトから空になったコップを受けとると、申し訳なさそうな顔をしながら部屋を出て行った。


それを見届けると、特にすることもないので再びベットへ横になる。

暫くの間横になっていると、急に睡魔が襲って来た。
テイトはその睡魔に身を委ね、夢の世界へおちていった。



一一一コンコン……


少しの間、気持ちの良い眠りについていたが、扉を叩く音で目を覚ます。

「…誰だろ…」


不思議に思いながら扉を開けると、バスケットを持ったカストルが立っていた。

「こんにちは、テイト君。風邪を引かれたのですね…可哀相に…大丈夫ですか?」

いきなりのカストルの訪問に驚きながら答える。

「え…あ、はいっ!寝たら大分良くなったんで大丈夫です。」

「そうですか…良かった。これ、果物です。良ければ食べて下さい。」


カストルから、林檎やメロンなどの美味しそうな果物がたくさん乗ったバスケットを渡される。


「これ全部、俺にですか?ありがとうございますっ!」

「いえ…喜んで頂けた様で何よりです。」

嬉しそうにバスケットを抱えるテイトに、カストルは笑みを深くする。




「お、良いもん持ってんじゃねぇか。」


ほのぼのとした二人の雰囲気を壊す様に腕が割り込んできた。
突然現れた腕は、テイトが抱えていたバスケットから林檎を奪って行く。

「あっ!何すんだよっ!」

腕が伸びてきた方を睨み付けると、フラウが先程の林檎をかじっていた。

「あっ!何してんだよっ!折角カストルさんが下さったのにっ!」

テイトが睨み付けながら言うと、フラウは不機嫌そうに顔をしかめた。

「んだよ、その言い種は。折角このオレ様がわざわざ様子を見に来てやったのによぉ…。」

「え?お前が…?」

「おや…。私はてっきり、風邪で弱っているテイト君を襲うつもりなのかと思いましたよ。」

訝しげな様子のテイトと、にこやかに毒づくカストルに顔を引きつらせる。

「んなわけねぇだろっ!」

「嫌、貴方ならヤりかねませんからね…」

「テメェ…表へ出ろやぁ…今日という今日は決着つけてやる…」

「いいですよ…返り討ちにして差し上げます。」

「え、ちょっと…」


目の前で火花を散らす二人を止めようとするが、熱のせいで身体が思うように動かない。
そうこうしている間にも、二人の雰囲気は悪くなっていく。
いよいよ本気で決着をつけようとした時一一一



「ストップ。何してるの、二人とも。こんな所でっ!」


「ラブラドールさんっ…!」


ラブラドールの声で、二人は先程までの殺気を消した。
テイトは、二人のその様子を見て安堵の表情をうかべた。


「全く…テイト君は病人なんだよ?それなのに、こんなに寒い廊下にいさせるなんて…」

ラブラドールの尤もな意見に、二人はうなだれる。



ラブラドールの説教で、二人はすっかり大人しくなった。


「ありがとうございました。俺じゃあ止められなくて…」

「気にしなくていいんだよ。テイト君は風邪引いてるんだから仕方ないよ。それより…起きてて大丈夫?」

「はい。大分良くなりました。」

心配そうに顔を覗きこんでくるラブラドールに薄い笑みを浮かべる。

それに安心をしたのか、微笑みながらテイトの頭を撫でる。

「顔色も良いみたいだし…安心したよ。あ、はい。これ、お見舞いの花。」

綺麗に束ねられた白い薔薇を受けとる。

「ありがとうございます!部屋に飾りますね。」

「どういたしまして。…本当は、付きっきりで看病してあげたいんだけど…どうしても終わらせないといけない仕事があってね…。」
残念そうに俯くラブラドールに、テイトは慌てて首を横に振る。


「いえっ!気にしないで下さい。大人しくもう少し寝ることにします。」

「俺が添い寝してやろ「そう。じゃあ、お大事にね。」」


ラブラドールは、フラウの言葉を見事に消し去ると、フラウの襟首を掴んで廊下を去っていった。

その時のラブラドールは、笑顔だったものの周りのオーラは真っ黒だった。

「それでは、私も仕事が残っていますので。では、お大事に…」

二人を見送った後、カストルも帰って行った。


テイトは、カストルとラブラドールから貰った物を大事そうに抱えて部屋へと戻る。

貰った物を机の上に置き、ベットに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。

(…久しぶりに…会いたいなぁ…)


強烈な眠気に襲われたテイトは、そのまま意識を手放した。



(ん…なんだろ…気持ちいい……)

ふと違和感を感じて意識が浮上する。
頭を撫でられている様な感覚だった。

「…ん……」

「…起きたか。」

目を開けると、今ここにいる筈のない愛しい人が見える。

(俺…熱のせいで幻覚が見えてるのかな…)

触って確かめ様と頭の上にある手に触ると、まるで自分の存在を伝える様に強く握られる。

それに、自分の作り出した幻覚ではないと確信したテイトは嬉しそうに手に擦り寄った。


「…会いたかった……アヤナミ様…」

「…可愛いことを言ってくれるではないか…。」

久しぶりに会った恋人が愛しくてたまらない、という風に手を握り返してきたテイトに頬を緩める。

「でも…どうしてアヤナミ様がここに…?」

「お前が風邪だと聞いてな…様子を見に来たのだ。」

「わざわざ俺の為に…ありがとう。」


頬を赤く染めながら笑うテイトに微笑みかえす。


(久しぶりに近くでテイトの極上の笑顔を見れたことで、ここまで来たかいがあったな。)

アヤナミは、テイトが風邪を引いたと聞いてとんで来たのだ。
まだ終わっていない仕事もあったが、仕事のことなどテイトに比べたら塵に等しくなる。

ふとテイトを見ると、アヤナミが側にいることに安心したのか、また眠気が襲ってきたらしく目が半分閉じかかっていた。

「眠ればよい…今度は元気な時に会いに来る…。」

「…ん…分かった。…来てくれて…ありがとう…嬉しかった…よ…」


そう言うと再び夢の世界へと旅立っていった。

そんなテイトの額にそっとキスを落とし、幸せそうな寝顔を暫くの間見つめてから帰って行った。



眠っているテイトの枕の横には先程までアヤナミがつけていた手袋が置いてあった。


愛しい恋人が目覚めた時に、夢だったのかと悲しまない様に一一一……







いづみ様から相互記念に頂きました。
教会面子から心配されるテイトの愛されぷりだけでなく、最後はアヤナミ様とかたまらんです(*゚∀゚)=3
素敵な小説ありがとうございます!