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フラウとのゼーレを目指す旅の途中、久しぶりに彼に会った。否、彼が立ちはだかったと言った方がいいのかもしれない。彼の放つ異常なまでの殺気はフラウに向けられたものだが、ミカゲはテイトの服の中に潜り込み、カペラは自然と服の裾を握っていた。
「テイト兄ちゃん……」
「大丈夫だ、カペラ」
流石の彼もこんな子供までは手に掛けないだろう。あくまで彼の抹殺対象はフラウであり、彼もまたあっさりと殺されるほど弱くない。テイトは安心させるようにカペラを抱き締めた。
「帰っておいで、テイト君」
「ヒュウガ……」
記憶が戻る前に何度か身体を合わせた相手。奴隷時代にも同じようなことをされていたから特に何の抵抗もなかった。ただ、ヒュウガは本気で、テイトはそんな彼の気持ちに応えられていなかった。離れてからの長い間、時折テイトの身体は彼を求めており、そして初めて己の中の恋心を知った。
「今ならまだ、アヤたんに気付かれずに逃げられる」
「!!」
あの、アヤナミに尽くしている彼が。初めてその命令に背いている。
「馬鹿を言え!誰がお前なんかにテイトを渡すか!それにお前はアヤナミの部下だろう。そのアヤナミを裏切るのか!?」
「うるさいなあ。オレはテイト君に話してるのに。君じゃ力不足だって言ってるんだよ、斬魂」
「な……!」
「君はテイト君を護りきれる?オレはできるだろうと思ってミカエルの瞳を取ったのに、この前怪我させてたよね?」
「それは、俺が勝手に動いたから……」
フラウを庇おうとするテイトをヒュウガは睨みつけた。その威圧感に圧されテイトは押し黙る。
「たとえそうだったとしても、斬魂はテイト君から目を離すべきではなかった。……違う?」
「……そうだ」
苦渋に満ちた表情で、フラウはヒュウガの言葉を肯定した。
「オレならテイト君を護りきる自信、あるよ。だからオレと一緒に来ない?」
「ふざけるなよ。護りきる自信があるだと?そんな保証はどこにもない!」
鎌を出したフラウはヒュウガに斬りかかるが、ただの一閃で吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「フラウ!!」
「大丈夫だよ。死んではいないから」
すぐ近くで聞こえた声に思わず身を固くする。
「その子供には手を出さないから安心して。テイト君がおとなしくついてきてくれればの話だけど」
「お前がアヤナミを裏切ったという証拠はない……」
「あるよ、ほら」
ヒュウガは懐から取り出した緋い石をテイトの掌に置いた。
「ミカエルの瞳。アヤたんから奪ってきたやつだよ」
まあ正確には宝物庫からだけどね、と飄々と言うヒュウガは全て本気だった。アヤナミに忠実だった彼の運命をここまで歪ませてしまったのは、一体何なのだ。
(俺しかいない……)
ならば、彼のために自分がしてやれることは。
そう考えたら迷うことはなかった。躊躇わずにテイトはその手を掴んだ。
(ごめんフラウ。……ミカゲ)
ヒュウガもまた、ミカゲの死に関わっている。けれどその手を取ったテイトを赦してくれるだろうか。
「いい子だね」
ヒュウガはゆるりと嗤い、テイトを引き寄せる。
「……くな。行くな、テイト!」
テイトは一瞬振り返ったが、それだけだった。そうしてヒュウガと共に路地の一角に消える。
「テイト……っ」
フラウの悲痛な叫びが、虚空に木霊した。
荒神紫苑さまから相互記念に頂きました。
アヤたんを裏切ってまでテイトに溺れたヒュウガと全てを捨てヒュウガを選ぶテイトの関係が凄くて・・・!
素敵な小説ありがとうございます!