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ゆっくり吐き出した息が冷たい空気と交わり、目に映る白へと静かに変化しながら自然に還るように溶けて行く。
なんだかそれが面白く感じてしまい、もう一度息をそっと吐き出した。
それを見上げるようにして見ていたカペラは、楽しそうにテイトと同じ事をしている。
何気なく空を見上げると、眩しいばかりの太陽が徐々に地平線へと姿を隠そうとしていた。
もうすぐあの暖かな陽だまりの光から冷めた夜の闇へと変ってゆく時間だ。
少しずつ暖かな空気が薄れていくのを肌で感じ取り、自分の身体を抱きこむようにしながら小さく身震いをした。

「そんなに寒いんならもう宿に戻るか?」
「んー、もう少し歩いてたい」

最初触れた賑やかで自由のありふれた街の雰囲気は、酷く戸惑って困惑しかけたのを覚えている。
でもそれは自分が今まで知らなかっただけで、街というものは本来是が普通なんだということに旅を続けているうちに気がついた。
少しずつ慣れてしまえば、不安は次第に消え去ってゆく変わりになんだか心がほんわかしてくる。

「あ!」

手を繋いで歩いていたカペラが、何かを見つけたのか嬉しそうにしながら手を離して急いで走り出す。
その向かう先へと二人とも視線を向けて、やっぱり子供なんだなとおもわず苦笑してしまう。
先にあったのは小さな1軒の駄菓子屋。

「クソガキもいかなくていいのか?」
「うっさい!」

子ども扱いするんじゃないと噛み付くような視線で睨みつけてやるけれど、相変わらず大人の余裕というので軽くあしらわれてしまう。
相変わらずムカつく奴なんて思いながらも、そんなやりとりを何処かで楽しんでる自分もいる。
それはきっと、彼が側にいる事に慣れてしまったからなのかもしれない。
もう誰も失いたくない気持ちがあるのに、またひとつ出来てしまった守りたい大切な人。

「テイト兄ちゃん、これなにー?」
「ん?」

先から掛けられた声に反応して其方へ早足で近づいてゆく。
カペラは興味津々という表情で、並べられたお菓子の一つを指差していた。
どんなものだろうと覗いてみれば、星型に近い一欠片程度のカラフルな粒が小さな袋に入って並べられている。

「ああ、金平糖だな」
「こんぺいとう?」
「砂糖菓子だ。くっそ甘いから小さなお子様向きだな」

そう言うと、少し屈みながら並べられていた袋の二つを摘み上げて店員に渡す。
それから懐から取り出した財布からこの世界のお金である透明なクリスタルの塊を取り出した。
クリスタルの擦れ合う高めの音が小さく鳴り、フラウの手から店員の手へと移る。
それをなんとなくじっと見つめていたら、手にした金平糖の入っている小さな袋をカペラとテイトの前に持ってきた。

「ホラよ」
「あ・・・ありがとう」
「ありがとう〜」

遠慮がちに受け取った袋の中にはカラフルな色が柔らかく混ざり合い、なんだかそれがとても綺麗に見えて食べるのがもったいなく感じてしまう。
テイトはそれをもう少し見ていたくて眺めていたが、ふと先程の言葉の一部分を思い出す。

「・・・って、さっき小さなお子様とか言っただろ!」
「なんだ、今頃気付いたのか?」

凄く楽しげにそしてからかう様な表情で見下ろしてくるのが凄く悔しくて、苛立ちを隠さずに反撃といわんばかりにその横腹を思いっ切り蹴ってやる。
突然の痛みに蹴られた箇所に両手を宛がいながら小さく呻き声を上げるフラウ。

「このクソガキっ!」
「べーっだ!」

アカンベーをしながらカペラの手を取って、わざと置いてくようにその場を走り出す。
ああ、こんな下らない事も悔しくて、そして楽しいと思ってしまうことについ苦笑してしまう。
何時までこの優しさが続くのかわからないけれど、それでも全身全霊をかけてずっと大切にしていきたい。
今の自分では手を伸ばせる範囲でさえ守れるかどうかわからないけれど。

「逃げてんじゃねぇよ、このクソガキ」

突然背後から片腕が伸びてきたかと思えば、スルリと回されて首を絞めるカタチになってしまう。
加減はしてくれているのは分かるのだが、苦しいものはやはり苦しくてギプアップと言わんばかりにその腕を何度か叩いた。
すると分かってくれたのかゆっくり腕が解かれる。

「加減しろよ、馬鹿フラウ!」
「これでも十分加減してるぜ?」

相変わらず嫌味な奴、とか思いつつまた睨みつけてやる。
その隣では袋を両手で大事そうに持っているカペラが、目をキラキラと輝かせながらじっと見つめている。
暫く嬉しそうにみていたが、どうやら我慢出来なくなったのか見上げつつ遠慮がちに訊ねてくる。

「食べてもいい?」
「おう」

そう言うと笑顔全開になり、嬉しそうに袋を開け始めた。
すこし遠慮がちに手を入れて一欠片を摘んで取り出すと、少しの間眺めてから口に持ってゆく。

「あまーい」

心底嬉しそうに食べているカペラの頭を優しく撫でて、それから自分も食べてみようと零さないよう気を使いながら袋を開けた。
摘んだ一欠片を指先で動かしながら少し不思議な感じで眺めて、それからそっと口へと運ぶ。
優しい砂糖の味がじんわりと口内にひろがってゆく。

「・・・甘い」
「そりゃ、な」

再び袋の中に手を入れて一欠片を摘むと、今度はフラウの前に突き出すような形で出した。
そんなテイトの態度に、何をしていると疑問の表情を向けてくる。

「買ったのフラウなんだし、一つくらい食べてみろよ」
「へいへい」

そう言って手を伸ばしてきたので掌が差し出されるのかと思いきや、テイトの細い手首を掴んで少し前屈みの体勢になる。
それから突き出された金平糖をテイトの指先ごと、ゆっくり口の中に含んでいった。
思わず驚愕してすぐさま手を引っ込めようと力を込めたが、それを許さないと言わんばかりに握られた箇所へと力が篭っていて。
摘んでいた金平糖がフラウの口内へと移動した後、離れたかと思えば名残惜しそうにフラウの舌が少し濡れている指先を舐め取ってくる。
唯それだけの事なのに、内側から湧き上がる甘い痺れが体内を駆け巡ってゆく。

「ちょっ・・・!?」
「・・・くそ甘ぇ」

渋めの顔をしながら掴んでいた手を離すと、屈んでいた身体をゆっくりと戻してゆく。
そしてついさっきされた行為と隣にカペラが居た事と、更に今居る場所が街の中というのを思い出して茹蛸のように顔が真っ赤になってゆく。

「なっ、なっ、何すんだっ!!!」
「何って・・・食べさせて貰っただけだろうが。なぁカペラ?」
「あい」

そう言いながらも意味ありげに含み笑いをするフラウと、当然その深い意味などわかるわけもなく唯純粋で楽しそうに笑うカペラ。

「じゃあ僕もテイト兄ちゃんと食べさせ合いっこするー」
「はは、それは宿に戻ってからにでもしとけ」
「あいっ」

過剰反応してるのは自分だけ、という状況に更に羞恥心と怒りが混ざり合わさる。
頬を真っ赤に染めながら噛み付くように上目遣いで睨みつけてやれば、相変わらずの余裕的な笑みを向けられて。
更には普段見せない独特なあの絡みつくような視線を向けられて、恥しさの余り怒りを露にして膝裏を蹴ってやった。

「イテェっ!」
「このエロ司教っ!!!」
「・・・テイト兄ちゃん?」

何故テイトが怒っているのか当然分からないカペラは、疑問の表情をしながら首をかしげる。
そんな表情に、今更ながらしまったと思いながらなんとか言葉を見繕う。

「か、カペラは気にしなくていいからなっ!」
「???」
「と、とりあえずもう宿戻ろうっ!うん、そうしよう!」

そう言ってとりあえず歩くことを催促する。
慌てるテイトを見ながら苦笑すると、歩き出した二人を追うようにフラウも歩き出した。
オレンジ色の淡い光が、優しく並ぶ3つの影を静かに作ってゆく。







(フラウってば、ズルすぎる・・・)

必死に落ち着かせているけれど、鼓動は治まるどころかまだ早くて。
舐められた指先がまだジンジンと熱くて、二人に見られぬようにその箇所をぎゅっと握り締めた。







築山日和さまからリクエスト企画で頂きました。
カペラとテイトに癒されるだけでなく、フラウに翻弄されるテイトとかたまらんです(*゚∀゚)=3
素敵な小説ありがとうございます!