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残暑といえどまだ暑さが続いている中、無事目的地まで辿り着いた帝人は玄関前で一息付いて。
額から流れる汗を何度か拭ってから若干乱れている服を気にするかのように整えた。
それから両手の指だけじゃ数え切れないぐらい訪問している静雄宅のインターフォンを鳴らせば、待っている時間など殆どないまま開けられた玄関の先には同じ顔が二つ。

「こんにちは」
「おう」
「待ってたぜ」

玄関先に現れた二人は顔だけでなく背丈や体格も全く同一なので、もし同じ格好をして喋らなければ誰もが判別不可能なほどにそっくりなのだ。
今日は休日であるから普段見慣れたバーテン服ではなく完全な私服の静雄。
反して相変わらずきっちりネクタイを締め白スーツを着こなしたデリ雄。
瓜二つな二人は双子でもましてや兄弟でもなく、かといって遠縁等の血筋に当たる関係でもなく。
デリ雄は岸谷が気まぐれでつくったらしい人工生命体で、その際に静雄をモデルとしたそうなので似ていて当然である。
最初の頃は岸谷の元で過ごしていたのだが、なんらかの経緯で何時の間にか静雄と暮らすことになっていた。
帝人はその辺の詳細を殆ど聞いていないけれども、一応生活が続いているということは何処かで意気投合してるのかもしれない。

「ほら、上がれよ」
「お邪魔します」

二人に招かれるまま玄関を上がるとそのまま室内へと足を運んだ。
簡易サウナが出来上がってしまう帝人の自宅とは違い、クーラーの十分効いている涼しい部屋に満足げに笑みを零す。
静雄はそのままキッチンに向かってしまったので、リビングに向かっているデリ雄の後を大人しくついていった。
足を運んだリビングにはテーブルやソファーに幾つかの雑誌が投げ出されている状態から、どうやら二人とも帝人がこうしてやってくるまで時間潰しとしてそれを読んでいた様だ。
そんな状態も全然気にしていないのか空いてる方のソファーに腰を下ろしたデリ雄を眺めながら、仕方がないなと思いつつも放置されている雑誌を順に手にとって一纏めにする。
それから片隅に行かれたラックに仕舞い込んだところで静雄が3人分の飲み物を手にして姿を見せた。
麦茶が並々と注がれたグラスをそれぞれに手渡すと、そのままデリ雄とは正反対のソフォーに腰を下ろす。
まだ立ったままだった帝人はこの後どうしたものやらと思考を巡らせる。
ソファーはテーブルを挟んで2台しかないので静雄かデリ雄のどちらかの隣しか空いてないわけで。

(この場合静雄さんの方に座った方がいいのかな・・・でも、そうするとデリ雄さん不機嫌になるんだよな・・・かといってデリ雄さんの方に座ると反対に静雄さんが不機嫌になるし)

あれこれと随分悩んで考えた末に帝人がとった行動は、二人との距離がほぼ同じぐらいになる場所、つまりはソファーのないテーブル近くの床上に座る事だった。
勿論お互いに自分の隣へ座るだろうと思っていた二人が許す筈も無く、眉を顰めて不機嫌な表情になると自分の隣に座るように催促をかけてくる。

「帝人・・・なんで其処に座るんだ?こっちに座れよ」
「そんな所じゃなく大人しく隣に来いよ、帝人」
「えーと・・・」

どちらかの隣へ行けばもう片方が不機嫌になることがわかっていたのでこの場所にしたのに、と言葉にはせず内心でそっと呟きながら気付かれない程度にひとつ溜息を零した。
困ったような表情を浮かべながら二人を見てみれば、お互い譲るつもりはないようで隣に来いと訴えてくる。
このままでは幾ら時間をかけても平行線をたどるしかないような状態なので、仕方なく帝人は諦めると手にしていたグラスをテーブルの上に置いてから立ち上がった。
ゆっくりと歩きながら静雄の近くまでいくと嬉しそうな笑みをし、反対にデリ雄は更に眉を顰めて一層不機嫌な表情となる。
隣に座るものだと思っていた静雄は腕を掴まれて不思議そうな表情をする。
すると、ほんの少し躊躇うような眼差しを向けながら立って欲しいと呟いた。
言葉通り素直に立ち上がればそのまま引っ張られて反対側、つまりはデリ雄の座っていたソファー側まで連れて来られる。
腕を掴んだままストンとデリ雄の隣に腰を下ろしたので、別々ではなく3人並んで座ろうという帝人の意思表示なのだということをお互いが理解した。

「仕方ねえな」
「諦めてやるよ」

どちらもこれ以上我侭を言って帝人を困らせるつもりはないらしく、妥協したという意思をみせながら若干苦笑しつつ静雄も帝人の隣に腰を下ろした。
それを見て安心した帝人は笑みを浮かべると、手を伸ばして先程置いたグラスを手に取った。
カランと音を立てながら漂う氷を少し眺めてからそっと一口流し込む。
十分冷えた麦茶が喉を撫でるように通ってゆく感覚に安堵して思わずホッと息を零した。

「可愛いな、帝人」

その言葉と共にデリ雄の手が頭に乗せられると何度か撫でられる。
するとそれに対抗するかのように静雄も手を乗せれば同じく撫でてきた。

「帝人は何時でも可愛いぞ」

可愛いを連呼されるというのは同じ男性として正直嬉しくない。
けれどそう言った所でどうにもならないのは過去に経験済みなのであえて口には出さないでいる。
好かれているからこその褒め言葉と納得してそれ以上考えない事にしていた。

「帝人、夕飯何が食いたい?」
「そうですね・・・」
「んじゃ静雄が飯つくってる間に一緒に風呂に入るか」
「・・・は?」
「ああっ!?ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」
「時間を有効に使ってるだけだろうが?」
「誰がンな事許すかよ!」
「許可貰うのは帝人であってお前じゃねーの」

何故かこうやって時々口論になったりはずるけれど、流石にお互い手を出すところまではいったことが無い。
なので二人が頭上で言い合いをし始めているのをまた始まったと思いつつ。
随分慣れた感じで上手く流すように聞きながら。

(それにしても・・・)

幾らクーラーの効いている部屋とはいえ、ソファーの両隣を大の大人に囲まれれば多少暑く感じるわけで。
狭いわけでもないのに二人ともピッタリと寄り沿うようにしてくるから余計なのかもしれない。
静雄宅までずっと暑い外を歩いてきた喉は渇いていたようで、気付けばグラスの中に並々と注がれていた筈の麦茶はあっという間に飲み干してしまった。
まだ溶けずに残っていた小さな氷を仕方なく頬張ると、テーブルにグラスを戻してそのまま口内を転がしてゆく。

「悪い、麦茶足りなかったか?」
「あ、えと・・・」
「足りねえんなら俺の分飲めよ」
「お前はいい。俺のをやる」

とん、とん、と空になったグラスの側に殆ど口をつけてないぐらいに残っている二人の分が並べられる。
けれども帝人はその気持ちだけで十分有難いと訴えるかのように軽く頭を左右に振るだけ。
遠慮しているのだろうと判断した二人であったが、デリ雄が不意に何かを思いついたのか置いたばかりのグラスを手にとる。
そのまま口に含んで飲むのだろうと油断していた帝人は、突然顎を掴まれ上へと向けさせられてしまい。
デリ雄がとった行動の意味を理解しないままに気付いたら唇を塞がれていた。

「んんっ・・・」

突然流れ込んできた冷たい液体に誘われるままコクリと喉を鳴らして飲み込んでしまう。
すんなりと離れていった唇をぼんやり眺めながら、暫くしてから口移しで麦茶を飲まされたのだと理解した。

「デリ雄っ!てめえずりぃぞ!!!」
「うるせぇ」
「大体何で俺の帝人に手ぇ出してやがんだ!」
「はっ、何時てめえだけのモンになったんだよ!」

心底不機嫌そうな表情をしながら舌打ちをする静雄に対し、してやったりというような満足げな表情を隠そうともしないデリ雄。
すると静雄も同じくグラスを手にとって口に含む。
帝人はまさかと思って若干怯えていれば、案の定顎を掴まれ固定されるとそのまま唇を塞がれた。
再び冷たい液体が口内へと流れ込めば潤いの欲しい喉は容易く飲み込んでしまう。

「ふっ・・・んぅ・・・」

てっきりそれで終わりだと思っていた帝人はかなり気を抜いていた為、その後を続くように中へと素早く滑り込んできた静雄の舌を拒む事が出来なかった。
ゆっくりとした動きで口内をまさぐり始められた感覚から条件反射的に身震いをする。
やがて重なった唇の隙間から帝人の甘い声が遠慮がちに零れだした。

「はっ・・・んあっ」
「・・・んっ」

じわじわと湧き上がってくる甘い痺れに意識を掴まれそうになった直後、突然背後から引っ張られる感覚と共に二人の唇が強制的に引き離された。
予想通りこの行為をデリ雄が妨害してきたようで、かなり不機嫌な表情をして静雄を睨み付けている。

「おい何勝手に手ぇだしてんだ!」
「先にキスしたてめぇに言われたくねーな」
「ああしたかったからしたさ。けどディープはしてねーだろうが!」
「うるせえなぁ。俺もしてえからしただけだ」
「静雄てめえふっざけんな!!!」
「いちいちうるせーぞ!」
「んだとぉ!!!」

相変わらずのお互い一歩も譲らない状態になった時に、何も反応してこない帝人が気になって其方に視線を移した。
先程のキスで与えられた気持ちよさからだろうぼんやり気味な表情をみて二人とも思わず固まる。

「帝人・・・その顔は反則」
「まるで誘ってるみたいだぜ?」
「ふぇ?」

二人から覗き込まれながらもまるで他人事のように素っ頓狂な声をあげて。
するとまるでタイミングを合わせたかのように揃いも揃ってって可愛いと呟かれてしまった。
それに対し帝人は意味が分からないというような表情をしつつ首を僅かに傾ける。

「今からするか?」
「むしろ犯りてーな」
「ななな何言ってるんですか二人とも!!!」

途端に真顔になった二人に対しそれ以上の言葉を失った帝人は、口をパクパクさせながら顔を茹蛸のように真っ赤にしてしまう。
まだ夜じゃないので止めて下さいと懇願しながら、拒否するかのように両手を突き出し頭を何度も振って。
そんな慌てた様子を楽しそうに眺めながら二人とも次第に声を出しながら笑いを零し始めた。
遊ばれたのだと理解した帝人は若干涙目になりながら睨み付けるも効果はなく。

「か、からかってるんですか!?」
「冗談だと思ったのか?」
「いや、意外と本気だぜ?」

蕩けそうなくらいに優しい笑みを向けられて、言葉を詰まらせた帝人は恥ずかしくてただ俯くばかりで。
再び二人から今度は耳元側で可愛いと囁かれてしまい身体を少し震わせる。
それからほんのりと赤く染まっている頬に左右から触れるだけの優しいキスを受けた。







暑中見舞い企画で日和しゃんから遅れたお詫びとして2作目頂きました(*゚∀゚*)
静雄とデリックの対抗心と俺様っぷりに翻弄される帝人君が愛され天子過ぎて可愛いです///
素敵な小説ありがとうございます!