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「暑い・・・」
もう何度目になるかわからない程に繰り返される呟きは無意識のうちにでるもの。
夏といえば日本気候からいって逃れられない猛暑であるが、帝人の自宅にはクーラーなんて画期的なものがある筈もなく。
せめてものと少ない生活費から出して購入した安物の扇風機と窓を全開にして日々過ごしている。
けれども暑さは確実に帝人の体力と気力を少しずつ奪ってゆくばかりで。
おまけに連日続く熱帯夜で若干寝不足気味なのも後押しをしているかもしれない。
「ねぇ、デリ雄さん・・・」
「ん、何だ?」
「貴方はその格好で暑くないんですか・・・?」
「別に」
帝人の自宅に我が物顔で居座っているデリ雄は何時もと同じ格好、つまり白スーツのままで汗を全く流さずに平然と涼しい顔をしている。
人間ではない時点で恐らくそういった体感器官は違っている可能性がある為、普通の人のように季節によって暑さ寒さを感じる事はないのかもしれない。
けれども正直目の前で暑苦しい格好をされるのはある意味目の毒でもある。
「貴方が暑くなくても僕は見てるだけで暑いんです」
「だから?」
「上着ぐらい脱ぎましょうよ」
試しにお願いをする口調で言ってみたけれども、デリ雄は特に気にした様子も無く煙を燻らせて。
不機嫌さを隠そうともせず睨み付けてみれば楽しそうな深い笑みを返されただけ。
暫く無言でお互いが見詰め合うという状況が続いたけれども、先にその空気を壊したのは帝人の呆れるような溜息だった。
それからダルそうに腰を上げるとデリ雄の側まで歩み寄ったかと思えば突然襟を掴む。
「み、帝人!?」
「いいから脱いで下さいっ!!!」
恐らく暑さの影響からであろう、やや短気気味な帝人の言葉に驚いた表情を見せた。
けれどもそんな事も気にせず無理矢理にでも脱がそうとしてみたら、予想に反してデリ雄が嫌がる素振りを見せる事は無く大人しくしている。
ならばと抵抗されないことをいい事に少し乱雑げに上着を脱がしてゆく。
汚れのない真っ白な上着を脱がし終えるとシワが付かないようにと綺麗にたたんでから横に置いた。
とりあえず満足したらしい帝人はそのままデリ雄の前に腰を下ろす。
「・・・満足か?」
「そうですね」
けれども暫くするとピンクに黒のストライプ模様の長袖シャツも正直暑そう思ってしまう。
オマケにネクタイも締めてきっちり着こなしているままなのが余計にそう感じるのかもしれない。
物言いたげな視線をじっと投げてみたけれども、デリ雄は先程と同じく気にした様子は無い態度。
先程脱がせた時に抵抗されなかったからであろうか、我慢できなくなったらしい帝人は手を伸ばしてネクタイを掴む。
「今度は何だ?」
「もうちょっと涼しそうな格好にして欲しいです」
文句をいいながらスルリとネクタイを外してゆき、これまた同じように綺麗にたたんで上着の上に置く。
一瞬満足した表情になったかと思えば、それでもどうやらまだ許せないのか若干眉を顰めて。
再び手を伸ばして次はシャツの第一ボタンを外しにかかった。
「なぁ、帝人」
「なんですか?」
「これは誘ってンのか?」
そう言われてから今自分がデリ雄に対してしている状況を今更ながらにしっかりと把握する。
両足を伸ばしてゆっくりと寛いでいるデリ雄の上に乗っかってシャツを脱がせている状態は、二人を全く知らない第三者から見たら変な誤解を生みそうなものでもあるから。
今更ながら自分がしてきた行動に瞬時に茹蛸のように真っ赤になる帝人。
「ば、ばばば馬鹿な事言ってないで下さいっ!」
「なぁ、帝人」
名前を呼ばれて答えるように返事をする間もなく、気付いた時にはあっという間に視界がひっくり返っていて。
背中に感じる床の感触と視界に捉えられる古ぼけた天井から、暫くした後に押し倒されたのだと理解した。
デリ雄はずっと咥えていた煙草を手に取ると、直ぐ側に置いていた携帯灰皿へと素早く捨てる。
そんな動作さえ様になっている、なんて現状と見当違いの考えを抱きながらじっと見つめていれば。
「涼しくなりたいか?」
「それは、なりたいですけど」
見下ろしてくるその表情は笑みを浮かべている筈なのに、その目は反して笑ってないように見える。
こんな顔をする時は大抵何かしら企んでたりする傾向があるのだ。
「人間ってのは夏場には外気に熱を発散することで体温を一般的な37度前後に保っているらしい。基本的には汗が蒸発する時に身体から熱を奪ってゆく事で上昇する体温を下げようとするんだと」
「・・・はぁ」
「けれど、気温が高いと汗と気温の温度差が少ないから汗は蒸発しにくくなるんだとさ。その結果、身体の熱が発散しにくくなる状態になるから暑いと感じるそうだ」
「・・・ええと」
「まぁ、つまりだ。簡単に言えば今よりもっと汗をかけばいいって話」
言われた話を聞いて考える事は、何か運動をすればいいということだろうかと首を傾げる。
けれども室内トレーニングできるような器具なんて一切持っていない。
かといってわざわざ炎天下の中に運動をして熱中症や脱水症状になんてなりたくもない。
「こんな暑い時に動きたくないですよ」
「だから手伝ってやるよ」
「は?」
一体何がと思って疑問の眼差しを向けてみれば、突然伸びてきた手が遠慮なくシャツを捲り上げて。
運動するのになんで脱がなきゃいけないのかとぐるぐる考えていれば、大した抵抗もしないままにあっけなく脱がされてしまった。
シャツ一枚脱いで上半身裸になったといってもやっぱりそう簡単に涼しくなるわけでもなく。
一体如何いうつもりだと眼差しで訴えてみれば、口端を僅かに上げて笑みをつくると顎を掴まれやや乱暴に口付けされた。
「んんっ・・・」
先程まで吸っていた苦い煙草の味がして思わず口をあければ、狙っていましたといわんばかりにデリ雄の舌が難なく滑り込んでくる。
ゆっくりと確かめさせるかのように口内を這いずり回り、それから角度を変えて深い口付けにするとそのまま舌へと絡めていった。
突然何をするのだといわんばかりに押し退けようとした帝人の両手は、皺がつくのもお構いなしにと何時の間にか縋りつくかのようにシャツを掴んでいる。
僅かに開いた隙間から濃厚さを漂わせるようなピチャリとした水音が何度も零れ落ち。
「ふっ・・・はっ」
段々頭の芯が甘い痺れで支配されてゆく、思考が纏まらなくなった頃合を計ってだろうか。
最後に音を立てて軽いキスをするとやっとデリ雄の唇が離れていった。
何時の間にか帝人の口端から零れ落ちている唾液を指先で拭えば、たったそれだけの触れ合いなのにその口から躊躇うような小さく甘い声が漏れる。
そんな様子に満足げな笑みを浮かべながら帝人の下半身へとゆっくり視線を移せば、ズボン越しでもハッキリわかるぐらいにほんの少し持ち上がった状態となっていた。
「なんだ。キスだけで感じちまったのか」
「だっ、て・・・」
「ま、そうなるようにオレが開発したんだったよな」
頬を真っ赤に染めながら若干潤んだ瞳でじっと見つめ続けられていて。
そんな表情が相手を煽っているのだと分かっているのだろうかと思いながら、汗の流れる顔の輪郭を撫であげるかのようにそっと指先でなぞってゆき。
まだ落ち着かないのか呼吸の荒い帝人を見下ろしながら舌なめずりをする。
「というか、なんで行き成り・・・」
「手っ取り早く汗かくと言ったらヤるしかねえだろうが?」
「なっ・・・何考えてるんですかっ!!!」
「いいじゃねーか。気持ちイイ事して汗掻くんだしよ」
予想通り驚愕の表情をした帝人を心底面白そうに眺めながら笑いを零し。
今度は真っ赤になりながら罵声を上げ始めた帝人の唇を、撥ね退けるように五月蝿いとただ一言呟いてから強引に塞いだ。
(悔しいけど、気持ちイイのは事実だし・・・)
二人からやや離れた扇風機の振動音と五月蝿い程の蝉の鳴き声を何処か遠くで聞きながら。
疼き始めた甘い痺れに意識を沈めるかのようにゆっくりと瞳を閉じていった。
暑中見舞い企画で日和しゃんから頂きました。
無意識誘い受けな帝人君の可愛さにデリックのニヒルで格好良い様がたまらんです(*゚∀゚)=3
素敵な小説ありがとうございます!